長岡洋風カツ丼


 発祥の店は昭和6年(1931年)創業の「小松パーラー」。小松パーラーは平成18年(2006年)に閉店するまで、75年間にわたり長岡市民に愛されてきました。洋風カツ丼が開発されたのは戦後まもなくの頃、洋食を気軽に食べてほしいという想いから開発されたとの事です。開発当初はケチャップを元にし砂糖、醤油、赤ワイン、酢などで味を整えたケチャップベースソースでした。これは、戦後間もなくの頃、当時物資が不足する中、本格的なデミソースを作る事が難しく、米軍の配給品で比較的入手しやすかったケチャップを代用した為と考えられます。同様の事例は大牟田洋風カツ丼や鳥取の一部で見られるケチャップ餡掛けソースカツ丼等があり、いずれも戦後の混乱期にカツに合わせるソースとして当時手に入りやすかったトマトケチャップをベースにしています。このボリューミーで斬新な食べ物は長岡の人々に大いに受け入れられ、洋風カツ丼は長岡のソウルフードとして受け入れられました。

小松パーラーのケチャップソースは門外不出とされており、小松パーラー閉店後それを再現できるのは小松パーラーの厨房にいてレシピを受け継いだレストランナカタの中田将富氏と松キッチンの山本竜司氏、そして一旦閉店した松キッチンの店舗で新たに「PEOPLE’S KITCHENタカゼン」を立ち上げたかつて小松パーラーの厨房にいた高橋昌樹氏のみとなりました。現在、松キッチンは一旦の閉店を経て、長岡花火ミュージアム内のフードコートで営業を再開しています。一方、レストランナカタの中田氏は中学卒業後すぐに小松パーラーに入り研鑽を積んだ後1971年に「オーハシ・カレーショップ」をオープン。しかしそれも長くは続かず、1975年10月に独立してレストランナカタを立ち上げます。レストランナカタはカレーにシフトしたメニュー構成でしたが、それでも洋風カツ丼は最初から一度もメニューから外れた事はなかったそうです。

ケチャップベースソースで始まった長岡洋風カツ丼ですが、徐々に周辺の飲食店にも広がり文字通り長岡の地域グルメとなっていきます。また、物資の供給も安定しデミソースが容易に作れるようになった中、レシピ非公開のケチャップソースを独自に再現するよりもデミグラスソースでの提供の方が容易であったのかも知れません。そんな中で学生などより若い層に安価でガッツリと食べてもらえるよう主に大衆的な食堂でデミグラスソースタイプの洋風カツ丼が広まって行きます。後にこのようなデミタイプの物を「食堂系」、それに対し長岡で最初の洋食店でもある小松パーラーの流れを汲むケチャップソースタイプの物を「洋食系」と呼ぶようになります。前述のように洋食系の物は現在小松パーラーゆかりの限られた2店でのみ継承されていて、それ以外の殆どが食堂系の洋風カツ丼となっています。

 



今回長岡を訪れる機会を得て、洋食系長岡洋風カツ丼を提供する店舗の一つ、レストランナカタさんを訪問させていただきました。

今回は松江で同様のカツライス文化を調査研究している者として事前の予約を入れさせて頂いた上での訪問です。

ケチャップベースの洋風カツ丼とデミグラスソースの洋風カツ丼を頂きました。

小松パーラー譲りのケチャップベースのソースは決して強烈ではない穏やかな味わいの中にトマトの旨味、甘味、酸味、トロみなどが渾然一体となってカツに寄り添うと同時にライスに旨味もプラスする絶妙な味付け。物資のない時代にカツとライスを如何にうまく調和させ、ここまで仕上げた技量には脱帽です。

そして、デミソース版ですが、ワンプレートにご飯、カツ、デミソース、これにサラダを添えた構成は島根のカツライスとほぼ同じですが、食べてみた感想としては、島根のどのカツライスとも似て非なるものという印象です。デミソースはどちらかと言えばハヤシソースに近い仕上がりですが、旨味を残しながらも一切の癖がなく本来しつこい料理であるトンカツをさらりと頂ける一品となっています。これも料理人の技量の高さが伺えます。

現在、レストランナカタは初代の中田将富氏はご高齢で闘病中でもあり一線を退いておられ、現在厨房を任されているのは二代目経営者の土田智佳子さんです。土田さんは調理学校卒業後、自らカレー店を開くため修行先としてレストランナカタに入られました。その頃丁度後継者を探していた中田氏が土田さんの技量の高さを見込んで二代目店長としてお店を任せたいと依頼し全てのレシピを継承されたそうです。今回、幸運にも土田さんと少しお話をさせて頂く事ができました。松江にも同様のデミグラスソースを使ったカツライス文化が戦前からあると伝えると、戦前にデミグラスソースを作る事ができたんですかと、流石は料理人らしい質問を返されました。最後にこの貴重な長岡の文化をいつまでも守ってくださいとお伝えすると、力強く有難うございますとお返事をいただきました。

小松パーラーの系譜を継ぐ店

長岡市坂之上町:レストランナカタ 洋風カツ丼(ケチャップベースのソース、デミグラスソース)

長岡市城内町:松キッチン 洋風カツ丼(ファミリーソース{ケチャップベース}、デミグラソース)

洋風カツ丼を提供する店

新潟市:新潟ふるさと村 長岡洋風カツ丼 ※新潟タレかつ丼もあり

新潟県見附市坂井町:旅路 洋風カツ丼

新潟県長岡市下々条:弁天 洋風カツ かつ横置きタイプ

新潟県長岡市谷内:高見屋食堂 洋風かつ丼

新潟県長岡市藤沢:アミアンコーヒー 舎鈴夢 洋風カツ

新潟県長岡市東蔵王:キャロット 洋風カツライス 目玉焼きの乗った長岡洋風カツ丼

新潟県長岡市新町:三楽 洋風カツ丼

長岡市蓮潟:金子屋蓮潟店 洋風カツ丼

長岡市:福助食堂  洋風カツ丼

新潟県長岡市堀金:おれっちの炙家 ちぃぼう 越後もち豚の洋風カツ丼

新潟県長岡市今朝白:レストラン・ムービー 洋風ポークヒレカツ丼

新潟県長岡市栃尾泉:福助食堂 分店 洋風カツ丼

新潟県長岡市関原町:肉のこやま 洋風かつ丼 洋食系

新潟県長岡市関原南:食事処あらきや 洋風カツ ケチャップ味、洋食系?

長岡市:レストラン喫茶 ぽっぽ 洋風カツ丼

長岡市:レストラン ナカタ 洋風カツ丼(デミグラス・ケチャップ)

長岡市:煉瓦亭  洋風カツ丼

長岡市三ツ郷屋町:金子屋大島店

新潟県長岡市城内町:ラーメン居酒屋 つかさ 長岡の洋風カツ丼

新潟県長岡市三ツ郷屋:武屋 洋風カツ丼

新潟県長岡市大手通:食堂酒場 SHOWA なつかしや 長岡洋風カツ丼

新潟県長岡市東坂之上町:きよ志 洋風カツ丼

長岡市山田:金子屋山田本店 洋風カツ丼

長岡市:船場  洋風カツ丼

新潟県長岡市西片貝町:東山ドライブイン 幸楽 洋風カツ丼

長岡市:両苑  洋風カツ丼

長岡市上富岡:金子屋海龍 洋風カツ丼(デミグラソース)

新潟県長岡市平島:角八 平島店 洋風かつ丼 洋食系

新潟県長岡市宮内:一福食堂 洋風かつ丼

長岡市:喜味屋食堂 洋風カツ丼 

長岡市下条町:金子屋下条店 洋風カツ丼

新潟県柏崎市西本町:洋食フタバ カツ丼 長岡洋風カツ丼

新潟県柏崎市駅前:田辺食堂 洋風カツ丼

長岡市:越後川口SA上り線スナックコーナー  洋風カツ丼

新潟県柏崎市大字笠島:北陸道米山サービスエリア下り線 レストラン 洋風カツ丼

新潟県上越市大潟区土底浜:おおがた亭 長岡洋風かつ丼

南魚沼市六日町:萬盛庵 洋風かつ丼